明けの明星  ネスツ 「さあ、行け・・・わが娘、シルヴィ・ガーネットよ。」  シルヴィ「御爺様!!」  ふと気付くとそこはベットの上、どうやら夢をみていたようだ。  隣では妹のアルティが静かに寝息を立てている。   そういえば夜遅くまで勉強していたわね・・・。それにしてもかわいい寝顔。  シルヴィは寝ているアルティを起こさないように静かに窓辺の椅子に腰掛けた。  空に光る満月があたりをうっすらと、そしてやさしく照らし出している。  数か月前・・・私はこの手でアルティを斬り伏せた。  でもあの子は死ぬのを覚悟で立ち上がってきてくれた。私を救う為に・・・。  そして私はそんなあの子をシールドもろとも消し飛ばそうとまでした。  こんなに大切に思っていた妹なのに。  あの子を守るために選んだ道だったのに・・・どこでどう間違ったのだろう・・・。  幸いあの子の知恵と技が私を止めてくれた。そのおかげで今の幸せが手に入った・・。  アルティ・・・お姉ちゃんはもう一度誓うからね。あなたを守りぬくことを。今度は  ちゃんとした小さな幸せを守ってみせるからね・・・。  まだ夜中だったこともありシルヴィはそのまま眠ってしまった。  再び夢の中へ・・・  ネスツ「シルヴィ・・・余はお前に謝っておかなければならないな。」  シルヴィ「謝るって・・・一体何を謝ると仰られるのです!?」  ネスツ 「余の夢を実現させるためにかけがえのないお前を巻き込んでしまったことをな」  シルヴィ「でもそれはみんなの為にやったこと。御爺様が謝ることでは・・・」  ネスツ 「もしも余が今の秩序を破壊して新しい秩序を築いたとしよう。最初はうまくいくに違いない。       だが・・・ちょっとしたことから糸はもつれて元の歪みある世界に戻ってしまったであろう。」  シルヴィ「・・・」  ネスツ 「余はお前とともに過ごすというささやかな幸せを選ばず、新しい世界の構築を選択した。       結果お前に過酷な選択を強いてしまっていたのだ。その結果お前の一番大切な妹を       殺させようとすることになってしまった。」  シルヴィ「でも、それは私が選択した道です。」  ネスツ 「では、聞こう。余が出した選択肢はどちらかを選ばなければならなかったであろう。       どちらも選択しないということが許されない状況だったはずだ。」  シルヴィ「ですが・・・」  ネスツ 「人は時に望まない選択を強いられ、それによって引き起こされるすべての事を背負っていかなければならない。      余は最愛のお前にそれをさせてしまったのだ。そして向けたくもない刃を妹や余に向けさせてしまった。」  シルヴィ「御爺様・・・。」  ネスツ 「こんな余・・・いや、私を・・・おじいちゃんを許してくれ。」  シルヴィ「御爺様っ。」      頬を涙が伝って落ちてゆく・・・。      シルヴィ「でも御爺様のお陰で私は妹を守る力を得ることができたのです。でも私は御爺様を斬ってしまった。        謝らなければならないのは私です。」  ネスツ 「もうよせ・・・。お前が謝る必要などないのだ。あの剣でおじいちゃんはどれだけ救われたことか。       本当にありがとう。それから御爺様はよしてくれ。わしはそんなに偉くなどないのだ。」  祖父の顔には私が幼き日に見た優しい笑顔があった。  シルヴィ「お・・・おじい・・・ちゃん・・・おじいちゃん。」  だめだ、涙が止まらない・・・。  ネスツ 「シルヴィと過ごした幸せな日々・・・私は絶対に忘れん。さあ、もうすぐ夜が明ける。そろそろ帰らんといかん。」  シルヴィ「帰るって・・・おじいちゃんはどこへ!」  祖父の姿が薄く透き通って見え始めた。  シルヴィ「おじいちゃん!」  シルヴィが叫んだ時、ネスツの姿は消え去ってしまっていた。  ネスツ 「私はいつでもお前を見守っている。アルティと幸せな世界を生きなさい」      その言葉を最後にネスツの気配は完全に消えてしまった。  周りを見るとそこは私とアルティの寝室だった。  シルヴィ「夢・・・だったの?」  いつの間にか東の空が明るくなりはじめて、明けの明星(金星)が新しい朝の訪れを告げていた。  シルヴィはネスツへの感謝の気持ちを祈りに変えて、まだ残されている夜空に紡ぎだしていった。  アルティ「うーん・・・。お姉ちゃん・・・。バイクはもうダメよ・・・。」  シルヴィ「うっ!」  寝言とはいえ痛いところを突いてくる妹である。  シルヴィ「さあ、少しはお姉ちゃんらしくするか。おいしい朝ごはんと自慢の紅茶を入れてあげるからね。」  まだ薄暗い部屋で眠り続けるアルティをそのままにして私はキッチンへと向かった。  さあ、今日も朝が来る。小さな幸せを大切にしていこう。これからも・・・。